賢者のワイン

2023/01/13 16:40



新春にあたり、弊家の元日朝の料理を勝手ながら紹介します。

・根菜類のお煮〆(自家製)
・スモークサーモン(トップバリュPB、398円)、オニスラ添え
・紅白蒲鉾、伊達巻(鈴廣のなかでも上級系)
・昆布巻き(小さいので中身に鰊が入らない、食品スーパーで売ってるやつ)
・栗きんとん(既成)
・テリーヌ2種(海老と青野菜、ホタテとトリュフ、大手メーカー品は美味しくないので若干良い目の)
・臭い系のナチュラルチーズ(ゴルゴンゾーラ、ウォッシュ)
・バゲット

これは弊家の伝統とは切り離されています。
自分の食べたいもので構成されています。

もうちょっと正確に申しますと、飲みたい物に合わせて構成した結果でございます。

飲みたい物とは、元朝ですから、高級シャンパンという以外の選択肢はありません!

おっと、その前にお屠蘇は当然頂戴します。
古来の処方で調合された屠蘇散が薬用酒の老舗・陶陶酒本舗から出ていましたので、大晦日から本味醂に漬けておいたものです。

あ、お屠蘇の直後にいきなりシャンパンだとゴクゴク飲んじゃうので、食前酒にはやっぱり第3のビールを頂きます。
クリアアサヒの一択です。

正月くらいビールにしないのかって?
いや、これから美味しいお酒が陸続とご登場になるんですから、露払いは存在感を出してはいけないのです。
あくまでも咽頭部を清める役割に徹するのが、黒子の矜持というものです。

慣れると、この味のない「ビール的な低アル炭酸飲料」は、手放せなくなります。
ビールに近い味ではダメです。
ビールから遠い味がいいのです。

完全に趣味趣向の領域なので、ご賛同いただく必要は微塵もございません・・・

さて、ここからです。



シャンパンは、ポール・ロジェの1986年です。

濃いゴールド色に熟成しています。
二酸化炭素も僅かですが、グラスの底からまだ湧いてきます。
焦がしたビスケット、いわゆるトースト香を強く感じます。
全然すっぱくなっていません!
これは凄い生命力です。
干し杏や熟しきった南国のフルーツの風味が、濃淳なコクに溶け合っています。
いや~、新年早々結構結構!

グラスに注いだ光景を掲載したかったのですが、グラスが間に合わなかったので、やむなくボトルを小さく掲出します。

グラスはこの日のために最新鋭・チューリップ型のシャンパングラスを発注しておきました。
思い立ったのが遅くて、大晦日でした。

しかし、アマゾン恐るべし。
イタリア製の(でも財布を痛めない水準の)チューリップ型シャンパングラスを常時在庫していて、元旦に届けてくれるそうです。

ちなみに、付加料金のかかるお急ぎ便とか、特別会員登録はしていません。
まあ、午前中には無理でしょうね・・・

次に、清酒です。
貴重なお酒を蔵元から頂戴してあったのを、この元朝に頂くことにしました。



豊島屋本店さんは、神田の真ん中で江戸時代になる前から営業されている老舗です。
『江戸名所図会』にも大きくお店が描かれています。

日本で初めて「白酒」を創始したお店です。
店頭で売り始めたところ、江戸じゅうの人気を博したそうです。

東村山に自家の酒造蔵をお持ちです。
このお酒は簡単なものではありません。

「東京産のコメ」を100%使用しているのです。
これはなかなかお目に掛かれる材料ではないです。

そればかりではなく、酵母まで東京産です。
おそらく、蔵に生息している自然酵母でしょう。
原産地呼称制度をクリアしすぎて、笑ってしまうほどのスペックです。

さて、スペックといいますと、裏ラベルには
日本酒度 -40
酸度    8.2
とあります。

日本酒度は、辛口ですと「プラス」になり、「甘口」はマイナスになります。
マイナス40度というのは、これは普通ではあり得ない数値です。

普通の甘口でも一桁、多くても「マイナス十数度」という商品はみかけますが、
「-40」というのは、とんでもない数値です。

こりゃあ、甘いぞー。。。

と十二分に覚悟を決めて、一口頂きました。

すると!!

これはどうしたことでしょうか。
全然、甘くない!

ええー??

目の前で(というか口の中で)、何が起こっているのか理解できずに、新年早々、一瞬途方に暮れてしまいました。

よく味わってみると、非常にしっかりとした酸味を感じます。
そして、清酒特有の麹系の香りが控えめで、清酒っぽさがありません。

瓶を見ないで、目隠しでワイングラスにサーブされていたら、「どこの国のワインですか?」なんて聞いてしまうこと請け合いです。

いや誇張じゃなくて、日本酒じゃなくてワインです、しっかり。

酸味があると申しましたが、清酒で感じる酸味とは性格が全然異なっています。
皮の表面がまだ青い温州みかん、あれを想像してみてください。
晩秋に早く出回るミカンです。

青いミカンには、すがすがしい、若々しい、清新なほとばしる酸っぱさってあるじゃないですか。
あれです。

まさに年始にふさわしい清く新しい味わいです。

さきほどの長熟の高級シャンパンと同等の酸味レベルとは驚きます。
単に酸っぱいのではなく(というより、青いミカンと違って酸っぱさは微塵も感じません)、かといって甘味を残しているのでもない。

なんじゃこりゃー!?

一口で言えば、非常にコスモポリタン。
世界中の料理がもっとも高度の次元で揃う都市といわれている東京にふさわしい!!

ラベルに、「ALL MADE IN TOKYO」と誇らしげにタイプしてあるのも憎いところです。
先代は化学の工学博士、16代目の当代蔵元も半導体が専門の工学博士という、創業400年を超す老舗の繰り出した妙手に降参しました。

お料理との相性をみていきましょうか。。。

2種のテリーヌにはよく合いました。
ウォッシュタイプのナチュラルチーズにもピッタンコです。

甘い伊達巻、これなどはワイン系は苦手にしている対象ですが、流石清酒、よ~く合わせていきます。

和洋いづれの方角から弾が飛んできても、的確に撃ち落としていきます。
ジョン・ウェインか、アラン・ラッドか。。。(古い)

このお酒、欧米人を含めたワイン愛好家に受けると思います。

さっき開けて飲んだ長期熟成のシャンパンとか、あるいは南西フランス産のバン・ジョーヌのような、特有の枯れた風味をもったワインに共通するフレーバーやテクスチャがあります。

・・・と書きながら、栗きんとんと合わせてみました。
両方のお酒と連続的に飲み食べ比べをしてみました。

もちろん江戸酒王子もうまく合わせましたが、それ以上に、ポール・ロジェ1988のほうが、うまく手なづけちゃいました。
これにはびっくり。

もともと極甘の料理は、ワインにとっては鬼門でして、ソーテルヌなどの極甘口をもってくるというのが定石だったのですが、今日はなんと長期熟成シャンパンが清酒を凌駕してしまった場面に遭遇しました。

飼い主よりも、散歩の途中で出遭った他人になついちゃう犬って感じですかね?
それくらい、江戸酒王子がインターナショナルなセンスを備えているということです。



最後はお雑煮です。

子供のころからシンプルな雑煮で育ちました。
鰹出汁の澄まし汁に、 角餅と具は小松菜だけというものです。
(写真では焼いた餅の角が溶けて丸くなっていますが、サトウの切り餅です)

親も自分も東京生まれなので、てっきりこれが東京の雑煮なんだとシティーボーイ気取りでいたのですが、東京では鶏肉を入れたりするらしいと知ってびっくりしたのを思い出します。

近江の国は気候的、文化的にも別々のエリアの集合のようで、近江商人を多く輩出した琵琶湖の南東側は味噌仕立てでいろんな具を入れるようですが、弊家発祥地の湖北地方では澄まし汁に餅と大根葉だけというのを最近になって知りました。

大正6年に初めて東京進出した祖父の味が継承されていたことを再認識した正月でした。

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