賢者のワイン

2023/01/13 16:52

(2020年11月に執筆したものを掲出しています)

コロナ第一波を受けて今春から中断していた国立劇場の歌舞伎公演ですが、2020年10月から曲りなりに公演が復活しました。

10月は魚屋宗五郎を拝見。
菊五郎の宗五郎も良かったのですが、とりわけ時蔵のおはまが出色でした。世話物ならではの諧謔に富んだ円熟の境地を、体全体で表現していたのが印象に残る舞台でした。

で、味を占めて翌11月もお邪魔して参りました。

平家女護島(へいけにょごのしま)--俊寛僧都の悲劇を描いた名作を、おはこにしている吉右衛門が俊寛を演ずるのは順当なのですが、清盛館の場もセットでついてきて、なんと宿敵平清盛をも演じる二役という趣向です。
(この写真は国立劇場サイトから拝借しました)

吉右衛門は当然と言えば当然ですが、個人的には俊寛の妻・東屋の菊之助が良い味を出していたと思います。
写真で申しますと、赤い法衣が清盛、手前で縄に掛かっているのが東屋です。

素人の分際で劇評などにうっかり手を出しますと、こっぴどく痛い目に遭いますので、深入りせずに周辺事項でお茶を濁します。。。



観客席は、すべてこのような調子です。
前後左右にお客が座らないように、最初から碁盤の目のように発券されています。

全部の席が埋まったとしても、市松模様になります。
これは大変贅沢なことです。

舞台に向かう目の前の席は必ず空席、左右の席も必ず空席です。
見やすいし、ゆったりとしていて、満席の特等席よりも市松状になった2等席のほうが(居住性だけいえば)楽ちんです。

それでいて、公演時間が若干短めに配慮してあることもあって、入場券の代金は普段よりも低く抑えてあります。

だからといっても、出てくる役者さんは吉右衛門にしろ時蔵にしろ、当代きっての名優が当たり前のように顔を連ねています。

いや~、これは贅沢贅沢。

往復の電車での感染を気にされているのか、このような名役者による名作の公演ですが、10月も11月も空席が目立ちました。
もったいないことです。

歌舞伎座と違って、半蔵門の国立劇場の場合には(初台の新国立劇場もそうですが)、駐車場が完備しています。
よくあるように、「駐車場はございませんので、公共交通機関をご利用ください」などと勝手なことは言わないところが、ナショナル・シアターの良いところです。

1公演500円で駐車させてもらえるので、電車で往復するより安い人が多いはずです。
(2人なら完全に電車のほうが高くなります。いずれも燃料費・償却費・運転に伴う機会費用別)

それなら、ということで、せっかくですから11月は国立能楽堂でも俊寛をやるので、これも是非拝見したいと思いました。

同じ演目を歌舞伎と能で観るのは、実に興味深い体験です。
欲張ると、人形浄瑠璃を含めて3種で全部観るのがいいのですが、そうそう機会はやってきません。

・・・ところが!
発券開始日の10月16日(金曜日)の朝です。

午前10時が売り出し開始なので、じゅうぶん前もってスタンバイしておきました。
豈に図らん哉、9時55分くらいから国立劇場のチケットサイトがつながらなくなりました。

えー!
・・・まあ、驚きませんがね。

お能は毎度こんな感じです。
発券開始日の発見開始時刻になると、回線ビジーというのが常態化しています。

それでもって、10分くらいするとつながるのですが、その頃には全席完売しています。
はい、キレイに売り切れです。

この状態に慣れっこになって、2台目のPCとかスマホとか、ガラケーとか、いろんなデバイスで同時にログインを試みて、つながったデバイスで購入手続に入るのが、唯一切符を確保するテクニックになっています。

で、11月14日の能・観世流、俊寛は券が取れず、僧都に代って自分で涙を呑みました。



券を逃したやけ酒というのはお行儀が悪いので、俊寛僧都の無念に思いを馳せて(結構無理矢理系ですが)、流された喜界島の焼酎を手に取りました。

京都から九州というだけでも遠いのですが、南の離島ですよ。
とんだ島流しです。

そこへなんと、来るとは思っていなかった迎えがはるばる都から来たのに、乗せてもらえなかった。
そればかりか、最愛の妻が清盛のせいで亡くなってしまったことを偶然耳にしてしまう。

能や歌舞伎の世界観は、人間世界の無常をことさら顕在化させているように思えます。

喜界島の焼酎は黒糖です。
黒糖というと甘いイメージがありますが、そんな甘いもんじゃありません。

蒸留酒ですから、糖分は含まれていませんが、その蒸留前の「もろみ」の段階でも、醗酵が十分進行すれば糖分は酵母の餌となって食べられてしまいますから、甘口ワインや梅酒のように甘い飲み物にはなりません。

黒糖で作る蒸留酒には、ラム酒があります。
黒糖焼酎とラム酒は、材料も作り方も差はほとんどありません。

ですから、これはラム酒だといっても全然問題ないお酒です。
それをどうして焼酎と分類しているのか?

これは政治的判断です。
政治の介入・・・というと、悪い印象を与えますが、あながちそうでもありません。

黒糖焼酎は奄美群島の特産品です。
奄美群島以外で作られても、黒糖焼酎を名乗ることはできず、黒糖焼酎の税制も受けられません。

沖縄返還に先立つこと数年早く、日本の施政下に返還された奄美諸島の産業振興のために、実質的にはラム酒であって、高い酒税率が課されるはずの特産品を、やや無理筋の理屈で焼酎に分類して、低廉な酒税率を適用したのが黒糖焼酎です。

芋でなく、麦でもなく、泡盛のようなタイ米でもない、独特の香りと清新な風味が特徴です。

夏はロックに「かぼす」などを思いっきり絞ると爽快感満点です。
冬はお湯割りでじ~んと来るのがよろしいかと思います。

その出自からか、変に和風和風していないので、洋食系の食卓にも違和感なく合わせて頂けます。

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