賢者のワイン

2023/04/15 19:16

半蔵門の国立劇場が「さよなら公演」をやっています。


昭和411966)年の新築落成から、わずか57年で「老朽化」だそうです。観劇する側からしますと、歌舞伎を演じる大劇場、人形浄瑠璃の出語り床を備えた小劇場、別棟の演芸場のいづれをとっても、内外装ともに味わい深い落ち着いた雰囲気のある芝居小屋だと思うのですが。


日本は文化予算が欧州に比べて非常に少ないという声をよく聞きます。しかし、実はこのような文化施設の建築費を算入すると、地方自治体の施設分も含め文化予算は世界で首位だという記事を読んだことがあります。その記事は、数十年前の東急電鉄関連のニュースレターのような媒体に専門家の方が寄稿していたものでした。自分もまだ20代でしたが、そんな見方をすると「事実」も変わるのかと印象に残ったことは鮮明に覚えています。


食料自給率でもそうですが、指標のなかには「日本が国際的に劣位にある」ことをアピールして、予算配分を獲得する意図をもって算出されていることもあるようなので、鵜呑みにしないほうがいいみたいです。


名建築の誉れ高い葛西臨海水族館もそうですが、文化施設や公共施設に限らず、使える建物を老朽化扱いにして取り壊したがるのは、伊勢神宮を抱く国民性なのでしょうか。




さて、4月は歌舞伎でも文楽でもなく、演芸場(寄席)に参りました。

トリは林家正蔵で大岡政談を扱った「五貫裁き」をやったのですが、そこまでに登場した若手の噺家さんが言及した「落語家の階級別人数」が気になりました。


その部分だけを抜き出しますと、前座が一番少なくて、二ツ目がその倍くらいの人数、最上位である真打がさらにその倍以上いるそうです。要するに、極端な逆ピラミッドになっているということでした。


最上位の階級にもっとも数が多く、駆け出しのカテゴリーに属しているのが全体の2割にも満たないというのは、どこかで聞き覚えのある数字の配分だと思ったら、東京証券取引所の上場企業数と似ています。


資本市場が、落語という衰退産業と同じ構造のままで衰退していかないのかと、余計な心配をしたくなります(構築物は壊せるのに、構造は壊さないようです)。


 ところで、正蔵が枕で触れていたのですが、「この国立演芸場ほど座り心地の良い椅子を備えた寄席はありませんよ」とのことです。

確かに、老舗の定席の椅子は硬いうえに窮屈なところが多いのに、国立演芸場はふかふかのクッションでゆったりと鑑賞できます。国立劇場本館よりも新しい建物なのですが、こちらも一緒に取り壊してしまいます。


お天気の良い日曜日の午後なのに、空席が目立っていました。

税込2200円で3時間の至芸に浸ってみるのも一興かと思います。

 

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