2023/06/26 15:19
ワインが注がれたら、グラスをどのように回せばよいのでしょうか?
ワイン通といわれる人がよくやっているのが、ワイングラスをクルクルと回すあの仕草です。
見るからに、いかにもワイン通という感じがします。
回している御本人も、自分はワインに詳しいんだぞという自負心みたいなオーラをプンプンとさせています。
これはワイン用語でトワリングと呼ばれる動作です(チアリーダーのバトン・トワリングと一緒です)。
スワリングという人もいます。
英語では、twirling と swirling で別の用語ですが、グラスを回すときには同じ意味です。
この動作は、ワインのプロであれば、一番最初の段階で必ず教え込まれます。
ワインは瓶詰めされている間に、深い眠りについています。
熟成期間の長さにもよりますから一概には言えませんが、ワインはグラスに注いでも急にはこの眠りから覚めるわけではありません。
一般に、十分に熟成の進んだワインは、ワインの液体としてのパワーが落ちていますので、栓を開けて最初に注いですぐに内に秘めたエッセンスが開いてきます。
最初に注いでから5分から10分で飲み頃になり、あとは落ちていく一方ということもあります。
反対に、醸造後数年という若いワインの場合には、液体のパワーがまだまだ漲っているので、開栓してもすぐには液体のうちに秘められたエッセンスは表に出てきません。
放っておいてもいいのですが、何もしなければ栓を抜いてから1時間以上経過しないと、本当の香りが立って来ないというケースもあります。
そのために、わざと空気と接触させる容積を増加させるために、デカンターに移し変えることをします。
この作業の最中にも、空気と接触する液体の表面積が増加します。
デカンターに移す作業が面倒だったり、デカンターの用意がなかったりした場合には、トワリングといって、ワイングラスをクルクル回すことで、空気との接触容積を強制的に増加させることをするのです。
以上は、よく知られていることですから、ここで改めて長々と書く必要も無いことです。
プロの場合には、トワリングをやる必要性が多々あります。
1:香りでワインの劣化がないかを検知する
2:どの程度の香りが立つのか(香りの力強さ)を調べる
3:何の香りがするのか(香りの種類と複雑さ)を調べる
テイスティングはまず色を見て、垂れを見て(グラスをいったん傾けてすぐに元のまっすぐな体勢に戻すことで、それによってグラスの内側を伝って垂れながら戻っていくワインの痕跡の形状や速度を見ることです)、香りを利きます。
このように、口に入れる前にもやるべきことがいろいろあるのです。
香りはテイスティングの非常に重要な要素になりますので、入念に嗅ぎますし、香りの立つのが遅いタイプのワインの場合にはトワリングによって強制的に香りを立たせるのです。
以上はプロがその職責を全うする一環として職務として行うことです。
プロでない愛好家がこのようにトワリングをして香りを楽しみ、味わいの変化を楽しむことは結構なことです。
それもワインの楽しみの1つですから、是非やってみていただければと思います。
しかし、問題は、食事中にずっとクルクル回している人がいることです。
ワインが注がれてすぐに2-3回クルクルっと回転させることは、ワインの楽しみ方として洗練されたアクションですが、これをずっとやり続けるのはお奨めしません。
レストランやワイン会などの席で観察していますと、最初から最後までずーと卓上で回している人がいます。
グラスの底をテーブルクロスにくっつけて、会話をしながら手だけはずっと回っているという人を見かけます。
これは非常にもったいないことです。
何故もったいないのかといいますと、皆さん、学校の理科の時間に質量保存の法則というのを習ったのではないでしょうか?
物質が化学変化をしても元の質量の総和は変らないという有名な法則です。
ということは、ワインが液体から気体と態様を変化させるときにも、この法則があてはまるわけです。
トワリングによって香気成分が立ち昇って、あなたの嗅覚に届いたということは、液体の中に含まれるなんらかの成分が減少したことになります。
つまり、香りを無理やり引き釣り出した代償として、味わいが希薄化したのです。
プロは、ブラインドテイスティングや、劣化検知のために、非常に短時間でワインの全体像を把握する必要がありますから、最初にトワリングをします。
でも、それはそのワインが本来内に秘めている複雑な味わいの一部を犠牲にする行為なので、長時間にわたって回し続けるのは賢い行動とはいえません。
ワインがかわいそうです。
まして、熟成の進んだ柔らかい酒質のワインは、最初に申しましたように何もしなくてもすぐにパワーが落ちて行ってしまいますので、人為的に空気と触れさせてしまうのは、お年寄りに対する虐待に等しい行為です。
ワインは飲み物であって、回し物ではありません。