賢者のワイン

2023/09/24 08:27



暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものです。
猛暑が過ぎると赤ワインが恋しくなります。

倉庫の定温セラーから発掘されました。随分と前に企画して好評を博した2本セット。
最後の1セットが残っていました。

木箱にサテン風のクロスが、いかにも20世紀の贈答品のスタイルを踏襲しています。

シャトー・ラトゥール 1986年
シャトー・ド・ラ・トゥール 1995年

かたやシャトー・ラトゥールは、言わずと知れた1級シャトーの筆頭格です。
ヴィンテージも1986年と、誠に立派な年でありまして、銘柄も年号もぐうの音も出ない逸品です。

こなたシャトー・ド・ラ・トゥール。
絵柄にはシャトー・ラトゥールと同様に、「塔」とも「櫓」ともいわれる、中世の戦陣構築物が描かれています。

こちらは、メドックでもなくて、AOCはボルドー・スペリュールです。
とはいえ、1995年とこちらも大変秀逸なヴィンテージです。

箱詰め当時の輸入者希望小売価格は2000円か2500円だったと記憶しています。
前世紀末でその価格であれば、普通に美味しいボルドーワインが頂けました。

当時試飲した記憶が鮮明に蘇ってきました。
まっくろな液体の色合いが、ボルドーというよりは南西部で作られるタナ種を彷彿とさせました。

お味のほうは、濃淳なワインと言えば聞こえはいいのですが、平たく言うと、硬さと渋さが前面に出ているワインでした。

しかし、これは悪いことではありません。
優良生産年の上質な赤ワインを、瓶詰後数年で試飲すると非常によくある現象です。

長期熟成に向けて深い眠りに就いている状態といえます。
それを無理矢理起こしたわけですから、当然不機嫌です。お愛想など振りまいてはくれません。

人間でも反抗期には、親の言うことなど聞かないものです。
そういう子供が将来大物になるかは別として、ワインの場合には生産者と生産年の裏付けがありますので、これは期待の持てるワインでした。

あれから約四半世紀が経過しました。
どちらも円熟の境地に入っていると思います。

同じ「塔のワイン」といっても、価格では当初から10倍以上の格差があります。
(今の時点では1級のラトゥールが12万円くらいしているので、数十倍ですかね)

こんな釣り合いの取れない2本セットは、普通はあり得ません。
諧謔のわかる方にしか贈れない代物です。

さて、諧謔と悪乗りの境目とは、いったいどの辺にあるのでしょうか?

ラトゥールの3本目としまして、こういうのは如何でしょうか?


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