2023/11/14 21:56
ワインの栓にはコルクが用いられていますが、最近ではコルク樫も稀少となり、全てのワインに用いるほど安価ではなくなりました。そこで、人造コルクが登場し、合成樹脂を使ってコルクのような形状に形成しているものや、樫のコルクとまぜているものなど、いろいろな種類の人造コルクが創られ用いられています。
本物のコルクであれ、人造コルクであれ、こうした伝統的な栓はすべてガラス瓶の注ぎ口のところに抜き差し可能な物質を詰め込むという方法で栓をしています。
他方、金属製のスクリューキャップは、早くからウイスキーをはじめとする蒸留系の洋酒には当り前のように用いられているものですが、これをワインにも使うようになっています。とくに、ニュージーランド、オーストラリアが2大スクリューキャップの栓を込んで使うワイン産出国です。とりわけニュージーランドは、コルク栓のワインを探すのが大変というくらい、どんな高級ワインにもスクリューキャップが用いられています。
以前は、スクリューは安いワインというイメージがあり、実際に価格によって使い分ける傾向が世界的にありました。オセアニア、アメリカなど新大陸から徐々にコルク離れが進んできたとはいえ、フランスでは依然としてボルドーやブルゴーニュの高級ワインではコルクに醸造者名を焼印したものを使うなど、コルク信仰が根強く残っています。
このことから、「コルクのワインは良い高級品、スクリューキャップのワインは低級品」という二分法が一般に浸透しているようです。
先日、あるお世話になった方と一緒に食事に行った際に、お店のソムリエさんがとっておきとしてあらかじめ選んでおいてくれたワインがスクリューキャップだったのを、その方が見咎めて、ソムリエさんへきつい口調で苦情を言ったのには閉口しました。
「あれほど大事なお客さんだって言っておいたのに、そんな安いワインを出すのか」というのです。その場は、当方が「これはかなり上等なワインですよ」ととりなして(実際に大変美味しいワインでした)、事なきを得ましたが、一般的な認識としてはそういうことなのかと改めて刷り込みの深さを感じました。
イメージではなく、科学的な理屈としては、コルクは呼吸する、という昔からある理屈が有名です。
しかし、呼吸するということは、瓶外の空気が瓶内に入り込むということであり、つまり酸化してしまうことになります。ワインが酸化したら、それは栓をしていないのと同じですから、熟成が進むどころか、いっぺんに劣化して飲めたものではなくなります。
つまり、コルクを通して空気など入ってはならないのです。(実際には安いコルクでは品質が安定せずに空気がごく少量入ってしまい、ワインの品質が悪くなることもあるようです。つまり、コルク栓はワインの品質に対して良いほうには作用せず、悪いほうには可能性があるということです)
もっと重要な論点は異臭です。これは樫からコルクを採取して加工する際に、薬品を用いるのですが、この薬剤洗浄の過程で一定の割合で不良品が生じることがあり、その不良なコルク栓を用いたボトルは、中身のワインまで異臭を放つことになります。
これはブショネといって、コルク栓を用いている限り絶対に不可避とは言えず、開栓後の試飲もこのために行われるといってもよいくらいです。ただし、この薬剤が近年では使用禁止となってから、それ以降に瓶詰めされたワインにはコルク由来のブショネは激減しています。
もっとも、コルク自体の品質によって空気の侵入を許してワインが劣化している例は、依然として存在しています。
スクリューキャップでは当然こうした異臭の問題はまったくありません。まれに、キャップ不良で空気の入り込む隙間の出る場合がなくはないのですが、コルクの不良に比較して桁がいくつも異なる低確率です。
別の観点で申しますと、実際に長期熟成した場合にコルク栓とスクリューキャップとでどちらのワインが美味しいか、という本質的な論争は、実は世界中で随分前から議論になっています。
アメリカ、フランス、イタリア、イギリスで実際に同じ年の同じ銘柄のワインをコルク栓とスクリューキャップで瓶詰めし、一定年数の後に比較試飲したという企画がいくつも開催されています。その結果は、どの国であってもコルクよりもスクリューのほうがワインの品質保持、ならびに良好な熟成に優れているとの結果が出ています。
なお、これはどの世界、どの分野にもみられる現象ですが、論者によって先に結論があって、それを導くための実験を行ったり、結論に合致するデータだけを掲載したりすることもあり、論争の終結には遠い状況ではあります。
以上は理屈からのお話しですが、実際に私などレストランの経営者やソムリエさんたちにワインを直接販売してきた経験からしますと、レストランのサービスに携わるプロはコルク派が圧倒的です。
これは、食事を召し上がるお客様がコルクを好む、あるいは冒頭に書いたようにスクリューに対して低級品であるとの認識を持っている方が多いことによります。プロとしてはスクリューのほうが品質の上で勝っていることはわかっていても、お客さんの顔色をみるとどうしてもコルクを選ぶというところです。
また、スクリューキャップですと誰でも簡単に開栓できてしまい、ソムリエがテーブル上で恭しくコルクを開栓するというセレモニーがなくなってしまい、有り難味を演出できないというジレンマもあるようです。