賢者のワイン

2023/11/16 09:47


きょうはボジョレーヌーボー解禁日ですが、これについてはまた改めて。

 

その前提としまして、写真のようなワインがスーパーなど小売店の目立つ場所に堂々と売られていることについて、触れておく必要があります。

 

ボトルの首のところに、ちょこんと嵌め込む形式のPOPが付けられていますが、ここに3つもの問題フレーズが集まっています。

 

1つは、おなじみの「フルボディ」。

昔はよかったのに、いまうるさい世の中になってダメになった、というのは、セクハラおやじの常套句ですが、それと同程度の問題ワードがいまだに大書されています。

 

「フルボディ」などは、いまやルッキズムの観点から社会的に容認できる単語ではありません。

実に恥かしいことです。

 

2つめは、「ガツン」です。

なんですか、ガツンって?

 

ワインは「ガツン」を目的とした飲み物なのでしょうか?

映画作品に戦闘シーン、暴力シーンの多いものを求めるのが映画通ではないのと一緒です。

 

衝撃の強さを求めるなら、35度の甲類焼酎(梅酒を漬けるやつ)を生(き)であおればいいだけです。

わざわざワインに手を出す必要はありません。

 

3つめは、「濃い旨」です。

これも「濃いほうが上質」という、間違った判断基準を持った可哀想な消費者を誘引するための、盛り場のポン引きのようなトークです。

 

こうした品格の微塵も感じられない劣悪な宣伝文句が、こともあろうにサントリーという、我国の酒類業を代表するファミリー企業から発せられていることに、嘆息を禁じえません。

 

話はここで終わりません。

 

このワインをPOPのせいで嫌悪していたら、ワイン醸造者に申し訳ないと思いました。

宣伝文句には身の毛がよだつのですが、ここは渋々購入して、試飲してみました。値段はワインコイン前後です。

 

これは良い意味で驚きました。

透明感のあるキレイ目の造形だったのです。

 

全体に澄んだ酸が流れていて、タンニンはやさしくこなれていて前面には出て来ません。

非常にバランスの取れた上品な構造です。

 

要するに、まったくもって「フルボディ」ではなく、「ガツン」系でもなければ、「濃い」わけでもありません。

 

POPは虚偽表示ということになります。

普通、虚偽表示は、劣悪商品を優良商品として喧伝することです。

 

なので法律用語でも、「優良誤認」というようです。

このPOPは「劣悪誤認」でした。

 

チリのサンタカロリーナといえば名門ワイナリーで、すぐれた酒質のワインを造ることで定評が確立しています。

 

名門の醸造者がその名に懸けて送り出したワインは、低価格と言えども大変筋の良いワインに仕上がっていました。

 

それなのに、日本で輸入代理店の重責を担うサントリーによって、醸造者の意思とも実際の製品とも正反対のキャッチフレーズを着せられて、公衆の面前に晒し物にされているのです。

 

ワインと醸造者の身になると、不憫でなりません。


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