賢者のワイン

2023/11/21 13:04


「フルコース」は19世紀の遺物 から続きます

  

さて、このような正式晩餐会の献立表には、同時にサーブされるワインの銘柄とビンテージも記載されていますので、非常に興味深く参考になります。

 

たとえば、2012年のオリンピックの開催都市に立候補していたロンドンですが、開催都市を選定する国際オリンピック委員会の面々をご接待するために、女王はじめ王族3世代が総登場して2005年にバッキンガム宮殿で催された晩餐会の献立表もグーグルで見ることができます。

 

ここでは、1品目が「スズキのロースト、マッシュルーム添え」、2品目が「鴨胸肉のビガラードソース」(ムスリムにはハラル・チキンを提供)となっていて、デザートは「洋ナシのタルト」です。

 

いうまでもありませんが、見事に「料理2皿」プラス「デザート」です。

 

なお、本題からは外れますが、地元の高級紙『デイリー・テレグラフ』によれば、本来であれば晩餐会の献立表は料理界の永年の慣行に従ってフランス語で書かれるのですが、このとき、ロンドンは開催都市を巡ってパリとデッドヒートを展開していた真っ最中でしたので、出席者向けの献立表がなんと英語で書かれました。

 

このことは、長くバッキンガム宮殿に勤務している誰もが「記憶にない」と新聞の取材に証言しているように、英国王室史上初めて(?)のことだったようです。

 

これに合わせて供されたワインは、ニュージーランドを代表するワイナリーであるクラウディ・ベイのソービニヨンブラン2003、赤はこれまたニュージーランドのマウント・エドワードという小さいブティックワイナリーのピノノワール2001、オーストラリアの大手ワイナリー、ブラウン・ブラザーズのオレンジ・マスカット&フローラというデザートワイン、それに1960年のビンテージ・ポートでした。

 

さて、これを見ると「あれ?」という選定ではないでしょうか。

いくら英国でのディナーとはいえ、フランス産が1本も選ばれていないし、ニュージーランドとオーストラリアから4本中3本も選ばれています。

 

国家元首が王宮で主催するフランス料理の晩餐会としては、非常に珍しいセレクションです。

 

これには何と女王の指示があったと、さきほどのデイリー・テレグラフが書いているのです。

 

フランスのワインを提供するのを禁じ、その代りに大英帝国旧植民地から選定するよう命じたとあります。さすが戦勝国の国家元首です。

 

さて、話を元に戻して、料理のフルコースのことに戻ります。

 

店番が、ボルドーのギルド(同業組合)であるボンタン騎士団から名誉騎士号を拝受したときの公式午餐会の献立も、やはり見事に2皿様式であり、温かい魚料理、肉料理、それにデザートでした。

 

後年、シャトー・バタイユなどを保有するカステジャ家と、シャトー・デュクリュボーカイヨなどを保有するボリー家との結婚式という絵に描いたようなセレブ同士の祝言があった際に、アジアからは唯一店番が参列したのですが、そのときの晩餐会の献立も2皿+デザートでした。

 

以上の特徴としては、いかにも前菜然とした中途半端なオードブルがない、スープがない、お口直しのグラニテ(などと称する子供騙し)がない、ということです。

 

前菜 ~ スープ ~ 魚料理 ~ グラニテ ~ 肉料理 ~ デザートなどという日本式の「フルコース」は、アメリカのホワイトハウスや英仏の宮殿における歴史的晩餐会のメニューの画像をたどっても、1970年代初頭を最後に姿を消していることがわかります。


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