賢者のワイン

2023/12/01 09:28



近年、書店の興廃を嘆く声が喧(かまびす)しいと感じます。

ここには、地方鉄道と同じ構図が見えます。

 

自分は利用しないのに、保存を訴えるあの声です。

 

鉄道の数値分析に詳しい青山学院大学教授の福井義高さんによれば、鉄道とは非常に密度の高い需要に恵まれない限り、経済的に成立しないそうです。

 

要するに、毎日満員になるような超過需要がある、つまり、同一の区間を多数の乗客が密集してでも利用したいと思わせるような需要の存在が、鉄道業が採算に乗る必要条件です。

 

福井さんは大卒後国鉄に入社し、その後会計学の教授となったために、鉄道の会計分析は現場事情を含めて説得性があります。(英独仏伊西露中7か国語を自由に操る言語学オタクの側面は、いまは立ち入りません)

 

この経済合理性から成立するのは、1つは大都市圏内(首都圏や大阪圏など)、もう1つは大都市間の2地点間輸送(東京-大阪間など)のみということになります。

 

それ以外は、出発地点と到着地点を利用者が自分の都合の良いように自由気ままに可変できる自家用自動車にかないません。(以上、福井義高『鉄道は生き残れるか:「鉄道復権」の幻想』、2012年、中央経済社を参考にしています)

 

しかし、地方では、採算性を支える乗客が存在しなくても、「地域の精神を守れ」などという意味不明の論法がまかりとおります。

 

自己の資金は出さず、乗る努力もせずに、「守れ」、つまり公金を出せと言っています。

自己の信奉する精神世界の実現を公金で行えと主張することに、恥じらいを感じていないようです。

 

さて、本題の書店も、地方の鉄道と同じです。

 

これは地方に限らず、大都会の真ん中であっても、該当します。

 

便益になびきアマゾンで常時購入しているのに、もはや自分では利用しなくなったリアルの書店が廃業、閉店、撤退などに至るや、文化論まで持ち出して残念がることが知識人を気取る人々のお約束になっています。

 

新聞やネットメディアの囲み記事も、一様にその流派に属しています。

青山ブックセンターやリブロ池袋本店の閉店のときに大発生しました。

 

いま、辛うじて持ちこたえている街場の書店は、鉄道における満員電車のような需要(輸送密度)がなくても、家賃が発生しない自己物件で営業し、家族労働に頼る比率が高いという構造にあるところが大半です。


(次回に続く)

 

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