2023/12/04 13:38
現地で現物をみて書いた宗教と社会
いきなりですが、冒頭の写真に写っている人物はどなたかご存じでしょうか?
実は、この写真は生成AIによって生成された画像です。
出版物の紹介サイト「版元ドットコム」では、多くの出版社が表紙画像の使用許可を出しているなかにあって、岩波書店をはじめとする大手出版社は「使用不可」を貫いているので、画像サイトから拝借して参りました。
著者の内藤正典さんは東大教養学部で科学史・科学哲学を修めたのち、大学院では地理学に転じてそのまま助手を数年務め、一橋大学に移って社会学部で教職と博士号を得ています。
シリアやトルコに留学経験もあって、イスラム社会の専門家として、中東がきな臭くなるとテレビの報道番組に呼ばれて解説していました。
宗教学の専門家というカテゴリーではなく、イスラム地域の専門家というのが内藤さんの著作を読むと改めて認識する点です。
この「地域の専門家」という枠組は、さらにベースとなる学問領域によって、視点といいますか視座といいますか、対象を捉まえて料理する際に、どこからどのような包丁を振り下ろすのかという、切り口の違いとなって最終生産物である書物に反映されます。
この本の特徴は、地域を論ずるので地図が多いのはまあ当然として、写真が多く掲載されています。そのすべてに「著者撮影」と記載されています。
現地で現物を確かめるフィールドワークが著者の研究の原点となっていることがわかります。
「イスラムといっても、いろいろあるよ」ということは、日本でもしばしば言われてきているので、漠然とそうなんだとは思っていても、何がどう違うのか、どの国とどの国が似て非なるのかなど、具体的なことは知らないことばかりです。
そこを、通算すると長期に及ぶイスラム社会での滞在経験も踏まえつつ、現地現物主義で多面的な観点からわかりやすく整理しています。
また、書名にも「ヨーロッパ」と一括りになっている欧州が、実はムスリムにどのように対応しているのかについては、非常に相違点が多いことも本書の中心論点の1つです。
多文化主義のイギリスやオランダ、同化主義のフランスなど、それぞれの手法で「過去半世紀以上にわたって共に暮らしてきた」ヨーロッパの人々が、2015~2020年に戦争などを逃れた無数の難民の流入を転機として、もはや敵意に満ちた排外主義に転じてしまった経緯と要因を短く平易に解説しています。