2023/12/18 17:46
″「ワインをどうやって選べばいいのかわからない」という声をよく聞きます″--というコメントから始まるのが「ワイン選びのガイドブック」的な本や雑誌特集の定番です。
本当にそんなことを言っているお客さんがいるのかどうか定かではありませんが、読者にとって「あるある」なイメージから入るのが、大衆向け記事の導入部の鉄則になっていますので、そのルールに従っているのでしょう。
店番に言わせていただければ、選び方は至極簡単です。
「安くて自分が美味しいと思ったワインをリピートする」ことです。
「それがわからないから聞いてるのだ!」というお怒りを呼びそうですが。
第1に「手頃な価格」が重要です。
なんでもそうですが、高いものには簡単に手は出ません。
自宅で自分で飲むのは安いものがいいと思います。
「手頃」の定義ですが、特別なハレの日ではなく、日常の晩酌用なら1本単価で千円を切りたいのが人情ではないでしょうか。
1本500円程度でも、日常用に美味しいワインは実際にあります。
そのうえで、自分がリピートしたいと思うワインに出会えれば幸運といえます。
次に、飽きる人と飽きない人が分かれます。
まったく同じお酒を毎日続けたい人と、自宅での日常用であってもいろいろバラエティーを豊富にしたい人というように、対極の嗜好が存在します。
前者のタイプは、自分の定番が見つかれば、あとは継続するだけなので簡単ですが、後者のタイプの場合には少々難儀します。
持ち駒を片手くらい(5種類程度)用意してローテーションするのであれば、5本のお気に入りに出会う必要があります。
そうなると、全部が1本ワインコインに収まりきらないことも往々にしてありますが、千円まで許容するなら十分に対応可能です。
なお、この「トライ&エラーを経て、自分が美味しいと思うワインを求める」作戦にもマイナスがあります。
それは、「自分の嗜好」を神聖化するリスクです。
自分の嗜好が「必ずしも正しいわけではない」ことに気づくチャンスがありません。
これを「マイナス」とか「リスク」と表現することは、近代マーケティングの「顧客の声を聴け」という教えには反しています。
昭和の椎名裁定で敗れた首相候補が、「天の声にも間違った声がある」と名言を吐露したように、顧客の声が常に正しいわけではありません。
弊店は、「お客様は神様」説を盲信しない立場を取っています。
そこで最初のうちは、日常用であっても、筋のよいワインを専門家の助言を得ながら選ぶといいでしょう。
そうすることで、次第に本来の筋の良さと自己の嗜好の波長が同期していくことになります。
この「波長の同期」が、非常に重要なプロセスです。
さて週末用などに、ちょっと良い目のワインが欲しい時のために、「3~5千円クラスを選びたい」という需要も根強くあります。
このクラスは、そう簡単に手あたり次第に手を出して試してみるというわけには行かない価格帯です。
また「プチハレ」の用途になるので、外したくないという意志も働きます。
そういうときに、ネットで評判のよいワイン専門店のサイトを訪問する人が多くいます。
問題点は、売ろうとしているサイトなので(当然ですが)、前のめりになった記述、オーバーな表現があふれていることです。
とくに、某和製ネット商店街に出店しているワイン専門店には、この傾向が顕著です。
本当かどうかよりも、とにかく売りたいという供給者側の私利私欲を隠し切れないサイトもあります。
ドン引きです。
購買客のレビューを見るということもできますが、レビューを書いている人と趣味趣向が合致するとは限りません(というか、違う感性をもっているほうが普通です)。
なので、レビューで褒めているから、あるいは反対にけなされているからといって、判断材料になるともいえません。
つまり、飲んでみないとわからないのです。
そういうときに、自分の嗜好や感性の方角をわかってくれている専門家が、プロの専門性とお客の個人的嗜好の両面から勘案したうえで推奨してくれると、もっともヒットする確率が高くなります。
その際に重要なのは、その「専門家」のセンスです。
センスの高低、強弱、指向性などもさることながら、それがお客さん本人の指向性と親和度がどこまで満たされるかという領域になって参ります。
何度か勧められたワインを飲んでみて、そのヒット率で専門家を査定していくことになります。
専門家のほうも、頼られると、その期待に応えたい、あるいは期待を超えたいと考えて、さらにヒットする(フィット度の高い)商品を探索してくるでしょう。
そういう向上心とアクションの伴った供給者を見つけるのも、需要家の密かな楽しみではないでしょうか。