2023/12/30 23:56
「プロダクト・アウト」の時代のアンチテーゼとして、「マーケット・イン」が叫ばれたという、前回の話の続きです。
日本の企業社会の特徴は、どこか1社が始めると、同じ業界の他社も横並びですぐに追従することです。
なので、この「マーケット・イン」も日本中で大流行しました。
時を同じくして、セブン・イレブンが急成長し、立役者の鈴木敏文さんが、「お客の声を聴け」と大号令を発しました。
それで、POSデータが神の声に昇格してしまいました。
「お客様の神様化」現象です。
加えて、鈴木さんは「品切れは罪悪だ」と断罪しました。
それまでは、売り切れるというのは大変結構なことで、めでたしめでたしと誰もが思っていました。
ところが、品切れしたら、もっと売れたかもしれないのに、その機会を逃したのだから損失なのだと、機会ロスという概念を大々的に持ち出しました。
現場は大変です。
売れ残るよりも、品切れのほうを怒られるので、とにかく「売れそう」なものは過剰でもいいから仕入れるようになりました。
ワインの世界では、丁度第5次ワインブームが到来して、チリ産のカベルネソービニヨンが一世を風靡していたころです。
地上波テレビの全盛期でもあり、「ポリフェノールを含む赤ワインが体にいい」ということで、杜仲茶、紅茶キノコの次は赤ワインだという健康食品の延長で、「チリカベ」が爆発的な売れ行きとなりました。
ここから、日本のワイン市場がおかしくなったと店番は見ています。
「お客の声を聴け」と言われて聴いてみると、「お昼のワイドショーでやっていたから」という声ばかりだったのです。
それでも、会社の上のほうからの業務命令なので、逆らえません。
かくして、ワインのプロたちにとっては、頭上に「?」マークが3つくらい点灯しながら、不承不承「ワインをわかっていない神様」の声を、来る日も来る日も拝聴する日が続きました。