2024/01/05 22:58
本日はずいぶんと日が経ちましたが、ワイン風に描写して参ります。
お猪口に注ぎます。
薄い黄色に色づいた液体です。
これを見るために、清酒の利き猪口(本当は「利」の字の左にさらに「口」偏がつきます)は、純白の陶器でできていて、底部に青色の渦巻が描いてあります)。
この「薄い黄色」は、以前は上等な清酒の証(あかし)だったのですが、いまでは、無色透明なお酒が好まれていることもあって、必ずしも歓迎されるわけではない特質になりました。
しかし、グッド・オールド・デイズの評価軸を保つ愛好家には垂涎の的であります。
香りも色づきと同様に、深く濃く重厚です。
燻したナッツのニュアンスを感じます。
1口含みます。
濃醇で重めの酒質です。一時期、一世を風靡した「淡麗」とは正反対です。
重厚な酒質というと、荒々しく、さばけの鈍い棘のある風合を想像するかもしれません。
確かに、地酒の中には、往々にしてそうした酒質のものに出会うことがよくあります。
しかし、地酒系の重さと、正統本流の灘酒の重さには、根本的な違いがあります。
それは、繊細さが随伴しているかどうかです。
本来の灘の酒は、男酒といわれるような重厚さが特質ですが、甘味、辛味、酸味、苦味、渋味の五味が、いづれかの性質が突出することはなく、すべてが穏当な範囲で均衡しています。
さらに、そこにはフィネスを備えています。
フィネスの伴うバランスであります。
つまり、評価軸の基本線はワインと同じということになります。
お酒の基準といいますか、規範といいますか、良し悪しのポイントは(自然と)万国共通だったのです。
剣菱が典型ですが、いまでも白鷹も古き良き時代の熟成酒の伝統を守っているからこそ、こうした酒質に出会えるわけです。
清酒の熟成は、古くなったのとは違います。
その最大の差異は、「ヒネ香」がまったくないことです。
清酒が劣化すると「ヒネ香」が生じます。
白鷹や剣菱の熟成酒には、それがありません。
そんなことは当然なのですが、熟成感のない清酒が主流になっている時代には、明確にしておくことが求められます。
古酒なのに古さを感じさせないところが、技術であり職人技の発露でしょう。
骨太なのに繊細という、二律背反を平気で実現しているところが、銘醸蔵の真骨頂です。
地酒の対極に位置する都人(みやこびと)の洗練を、お燗瓶で堪能させて頂きました。